築15年以降の住宅にお住まいの方の中には、屋根の見た目の劣化や雨漏りリスクに不安を感じ「そろそろ塗装した方がいいいのでは?」と考え始めている方も多いのではないでしょうか?
特にかつて分譲住宅などで多く使われていた「ニチハパミール」というスレート屋根に関しては「塗装でメンテナンスできるの?」といった疑問や不安の声が多く寄せられています。
結論から申し上げますと、ニチハパミールには塗装をしても意味がありません。むしろ塗装してしまうことでさらなる劣化やトラブルを引き起こしてしまう可能性が高いのです。
こちらの記事ではニチハパミールに塗装をしても意味がない理由、適切なメンテナンス方法など詳しく解説していきたいと思います。

榎本悟
一級塗装技能士・外装劣化診断士
1998年に「南大阪ペイントセンター」を創業し、住宅塗装の専門家として20年以上の経験を持つ。外壁診断や雨漏り診断の豊富な知識を活かし、耐久性と美観を両立させた高品質な施工を提供。さらに、窯業サイディング塗替診断士や雨漏り診断アドバイザーの資格も取得し、住宅の外装全般に関する幅広いアドバイスを行っている。

橋本卓哉
学生時代に塗装業に携わり、大学卒業まで職人として経験を積む。卒業後は外装リフォームの営業・現場管理に従事し、これまでに1,000棟以上の施工を担当。豊富な知識と現場経験を活かして外装診断・施工に取り組んでいる。
1.ニチハパミールは塗装をしても意味がない
ニチハパミールは、外壁材大手のニチハ株式会社が1996年~2008年ごろに販売していたノンアスベストタイプのスレート屋根材です。
特に建売住宅や分譲住宅で多く採用され、現在築15~25年程度のお住まいによく見られる屋根材です。
アスベストによる健康被害により、1996年以降は屋根材を販売している各社がアスベスト(石綿)を含まない屋根材を製造・販売し始め、パミールもそのうちの1種類です。
ノンアスベスト材製造の初期の段階で製造されたニチハパミールは、アスベストの代わりに配合された成分が、想定を大きく下回る耐久性であったため、一般的な屋根材に比べ早期にめくれや剥がれといった問題が起きました。
ニチハパミールは木質系の下地に塗膜を吹き付けた屋根材で発売当初は「軽くておしゃれ」と人気を集めていましたが、最近では以下のようなトラブルが発生しています。
■層間剥離(ミルフィーユ状の剥がれ)
最も多く報告されている劣化が「層間剥離」です。パミールは薄い板を圧縮して造られた木質系基材の屋根で、経年劣化によりその層がミルフィーユのようにペりペりとめくれるように剥がれてしまいます。
これは屋根材の内部構造そのものが壊れている状態で塗装で劣化を補うことができません。
■表面の塗膜剥離
パミールの塗膜は耐候性が低く、早いケースで5年程度でチョーキング現象(白い粉がふく現象)が起こります。進行すると塗膜が剥がれ下地が無防備なむきだしの状態になります。
雨水が直接下地に浸透してしまうと雨漏りや腐食の原因となるため注意が必要です。
■ひび割れ
パミールは水分の吸収と収縮を繰り返し膨張収縮を起こしやすい屋根材です。そのためひび割れが起こりやすくひび割れの隙間から雨水が侵入すると先程お話しました層間剥離の原因になります。
■反り・浮き
パミールが中央部分から反りあがるように変形してしまう劣化も多く報告されています。
あちらこちらにこのような浮きや剥がれがありますので、万が一知らずに高圧洗浄してしまうと表面の防水層がめくれあがってしまいます。
では、全部めくってしまえば?と思われますが、しっかりと固定されている箇所もありますのでそう簡単ではありません。
このような状態の上から塗装しても、すぐに防水層がめくれてきてしまうため意味がありません。
■欠落・破損
劣化が進行したパミールは、屋根材の一部が割れて落下するケースもあります。特に台風シーズンでは破片が飛散し近隣の被害を与える恐れもあるため、早期の対応が大切です。
また、パミールはラスパート釘と呼ばれる釘を使用していました。本来ならばこのラスパート釘にはメッキ処理を行いますので錆びにくいのですが、パミールに使われていたラスパート釘の一部に十分なメッキ処理が施されていないものが混ざっていたたため問題になりました。
当然釘が錆びてしまうと屋根材を支える強度も下がり屋根材の落下などの問題も起きてしまいます。
なので「うちのパミール屋根は層間剝離が起きていないし大丈夫!」と安心していても釘が錆びている場合もありますので早急な対処をおすすめしております。
これらの問題から現在では「パミールは塗装では対処できない劣化が起こりやすい屋根材」として注意喚起がされています。
上記の劣化症状が1つでも見られる場合、早急なメンテナンスが必要になりますが、塗装では改善が見込めず塗装をしても意味がありません。詳しく解説していきます。
1-1.塗装をしても意味がない理由
一見「表面が傷んでいるなら塗装をしたらいいのでは?」「近所のお宅は塗装で良くなったと言っていたけど…」と思われがちですが、ニチハパミールの根本的な問題は塗膜の劣化ではなく屋根材そのものの劣化にあります。
・表面を塗装しても内部まで劣化しているため長持ちしない
・塗膜の密着性が悪く、すぐに再び剥がれてしまう。
・劣化の進行を一時的に隠してしまい逆に雨漏りリスクが高まる(雨漏りに気付きにくい)
特に反りや層間剥離がある場合は塗装をしてもすぐにひび割れや膨れ、剥離を起こしてしまいます。塗装が出来ないというよりは、塗装をしてもすぐに不具合が発生するので塗装する意味が無いといった方が正しいかもしれません。
1-2.無理に塗装した場合に起こり得るリスク
■塗装後すぐに剥がれてしまう
パミールは表層が弱く、経年劣化により水分を含みやすい状態になっています。その上に塗装をしても意味がなく、早ければ1~2年で剥がれてしまうことがあります。
また、屋根内部に残っていた水分が熱で膨張すると塗膜に気泡や膨れができてしまうことがあります。
■かえって雨漏りリスクが高まる
塗装によってパミール表面が覆われると、内部に侵入していた水分の逃げ場がなくなり湿気がこもるようになります。これにより内部の腐食が進行しやすくカビや腐食が広がるリスクもあります。
実際に塗装後に逆に雨漏りが発生したという事例もあります。
■保証がつかない、保証対象外になる
業者によっては「塗装ができますよ」といって営業してくる場合がありますが、パミールが塗装に不向きであることを知らずに施工しているケースも多く、施工後のトラブルに関して保証がされないことがあります。
また、塗料メーカーの製品保証も「不適切な下地(ニチハパミール、セキスイかわらu、アーバニーなど塗装が不向きな屋根材」には適用されないため、施工後すぐに不具合があったとしても自己負担になる可能性が高いです。
■結局数年で再度工事が必要になりコストが倍以上になる
塗装費用は50万円~ほどかかりますが塗装では劣化を補いきれないため、数年後に再度メンテナンスが必要になります。
結局、数年後にカバー工法や葺き替え工法を行うことになり、塗装費用+本来の工事費用で合計200万円以上コストがかかってしまうことも珍しくありません。
最初から適切なメンテナンスをしていれば不要だった費用を払うことになり「こんなことなら最初からしっかりメンテナンスをしていれば…」と後悔される方も多いのです。
【結論】塗装ではなく根本的な解決(メンテナンス)が必要である。
ニチハパミールに塗装をしても根本的な解決にはならずかえってトラブルや費用の無駄が生じてしまう可能性があります。
特に築20年以上が経過している場合、様々な劣化症状が進行しているであろうことから塗装ではなく「カバー工法や」「葺き替え工法」でのメンテナンスが必要になります。
詳しくは次章にて解説いたします!
2.ニチハパミールの塗装以外の最適なメンテナンス方法と費用
塗装以外でのメンテナンス方法は以下の2つの方法を推奨しております。詳しく解説していきたいと思います。
2-1.カバー工法(費用目安約100万円/30坪~)
カバー工法とは既存の屋根材の上から新しい屋根材を被せる工法です。屋根材の上に屋根材を被せることから重くなってしまうため、最近では軽量屋根のガルバリウム鋼板を使用される方が多いです。
・既存の屋根材を撤去しないため工期が短くコストも抑えられる
・廃材処分費がかからない
・屋根が二重になることで、断熱、遮音性が向上する
ただし、以下の場合はカバー工法は施工できません。
・新しい屋根材を固定できないほどパミールの劣化が激しい
・耐震に不安がある場合(ガルバニウム鋼板などの金属屋根は瓦の1/4の軽さなのでこれらの屋根を選べば耐震性に問題ありません)
・すでに雨漏りなどが起きている場合(劣化を補いきれないため)
・既にカバー工法をしたことがある場合
■カバー工法の費用相場
カバー工法の費用相場は一般的な30坪のお宅で約100万円~です。屋根の状態や勾配によっても変動します
2-2.葺き替え工法(費用目安約150万円/30坪~)
既存のパミールを全て撤去し、新しい屋根材を1から設置する工法です。
・屋根材も下地も全て新しくなるので最も安心
・初期費用は高いが長期的に再工事が必要なくコスパが高い
・耐震性や耐久性が大幅アップ
しかし撤去が必要であるため工期が長く費用もかさみます。
工法 | 方法 | 適した状態 | メリット | デメリット | 費用相場 |
カバー工法 | 既存屋根の上から新しい屋根材を被せる | 下地がしっかりしていればOK | ・撤去不要でコストが抑えながら耐久性UP ・工期が短い |
・屋根が重くなる。 ・下地劣化が激しいと不可 |
100万円~(※使用する屋根材の種類によって変動あり) |
葺き替え工法 | 既存屋根を全て撤去したあとに新しい屋根材に交換 | 屋根材や下地の劣化が激しい場合 | 屋根を一新でき長持ちで安心 | ・費用が高い。 ・工期が長い。 ・アスベスト入りは処分費が高い |
150万円~ (使用する屋根材によっても変動あり) |
3.まとめ
ニチハパミールは一般的なスレート屋根とは異なり、塗装によるメンテナンスができません。むしろ塗装することで将来的なトラブルや費用増につながるケースも…。
お住まいの屋根材がニチハパミールの場合、劣化状態をきちんと把握し適切なメンテナンスで早めに対応することが大切です。
「業者に塗装しても大丈夫って言われたけど本当に大丈夫?」「今の状態ではどんなメンテナンス方法がいい?」など疑問や不安がある方はぜひ、パミール対応の実績が豊富な専門業者にご相談くださいね!