築年数の経過したお住まいでよく見られることの多い「セキスイかわらu」。
一見すると瓦のような見た目で軽量かつ施工がしやすいことから1990年代を中心に50万軒以上の住宅で採用されてきた屋根材です。
しかし現在はすでに製造が終了しており経年劣化によるトラブルやメンテナンスについてのご相談が増えています。
中でもよくご質問いただくのが「塗装できるの?」といった内容です。結論から申し上げますと、ほとんどのセキスイかわらuでは塗装でのメンテナンスは不向きであるとお伝えしております。
こちらの記事ではセキスイかわらuの特徴や劣化症状、塗装が不向きな理由、そして適切なメンテナンス方法とその費用の目安について詳しく解説しています。
お住まいの屋根材がセキスイかわらuの方やメンテナンスをご検討されている方はぜひご参考にしてください。

榎本悟
一級塗装技能士・外装劣化診断士
1998年に「南大阪ペイントセンター」を創業し、住宅塗装の専門家として20年以上の経験を持つ。外壁診断や雨漏り診断の豊富な知識を活かし、耐久性と美観を両立させた高品質な施工を提供。さらに、窯業サイディング塗替診断士や雨漏り診断アドバイザーの資格も取得し、住宅の外装全般に関する幅広いアドバイスを行っている。

橋本卓哉
学生時代に塗装業に携わり、大学卒業まで職人として経験を積む。卒業後は外装リフォームの営業・現場管理に従事し、これまでに1,000棟以上の施工を担当。豊富な知識と現場経験を活かして外装診断・施工に取り組んでいる。
1.セキスイかわらuの特徴
セキスイかわらuは、積水化学工業(現在のセキスイルーフテック)が1970年代~2007年まで製造、販売していたスレート系の軽量屋根材です。
主成分はセメントとパルプ繊維で素材に塗装を施して仕上げており、見た目は陶器瓦に似たデザインですが軽量で施工性が高く地震対策としても注目された屋根材です。
しかし経年により劣化がしやすく、現在は製造中止となっておりメンテナンス方法も限られているので注意が必要です。
■ 製造時期によってアスベストの有無が変わる
セキスイかわらuは製造時期によってアスベストの有無が変わります。
1990年8月より前に製造された物はアスベストが含まれており、1990年8月以降に製造販売された物にはアスベストが含まれていません。
健康被害による問題を受けアスベストを含有していない製品を販売したという背景がありますが、アスベストを含有していない製品は、メーカーが想定していたよりも耐久性が低く脆い屋根材になってしまいました。
その結果クレームが多発し製造・販売中止となりました。
2.メンテナンスが必要なセキスイかわらuの症状
年月が経過したセキスイかわらu、特に耐久性の低いノンアスベストタイプのセキスイかわらuは様々な劣化症状が見られます。特に以下のような症状があれば早めのメンテナンスが必要です。
2-1.塗膜の剥がれ
セキスイかわらuは出荷時に屋根表面に塗装が施されており、これが防水性や美観の維持に大きく貢献します。
しかし紫外線や雨風に晒されることで徐々に塗膜は劣化し、10~15年をすぎると剥がれや色あせが目立つようになります。
塗膜が剥がれると、屋根が直接雨や湿気にさらされるため、劣化の進行が早まります。
特にセキスイかわらuは吸水性があるため水分を含むことで内側からの劣化が進行します。
2-2.カビや藻の発生
塗膜の機能が弱まった屋根表面には湿気が溜まりやすくなり、カビや藻が繁殖しやすくなります。
特に日陰や北面のお住まいではこの傾向が強く、屋根一面が黒ずんだ状態にもなります。
カビや藻は見た目の悪さはもちろん、屋根表面の劣化を進行させ滑りやすくするため屋根作業時の安全性も低下します。
2-3.ひび割れ
屋根のひび割れは乾燥と収縮を繰り返すことによって発生します。(物理的な衝撃によっても発生する)
特にセキスイかわらuはセメント系の屋根材のため収縮や膨張によるひび割れが生じやすい特徴があります。
ひび割れを放置すると隙間から雨水が侵入し、下地の木材の腐らせる原因にもなります。
小さなひび割れでも油断せず早め早めの対処が重要です。
2-4欠落
劣化が進行すると、屋根材の一部が割れて欠け落ちてしまうケースもあります。特に台風や強風の際に飛散してしまうと周囲への被害や落下事故につながる危険性も…。
また、欠落部分から雨水が侵入してしまうと雨漏りのリスクにも繋がります。
2-5.反りや浮き
セキスイかわらuは長年紫外線や雨風、温度変化などの影響を受け、反り返ったり浮いたりする現象がみられることがあります。
これは屋根自体が吸水と乾燥を繰り返すことで起こる現象であるため、一度反ってしまった屋根材は元に戻りません。
反りや浮きがあると、屋根に隙間が生まれ雨水が侵入しやすくなったり、強風で飛ばされるリスクもあるため放置は厳禁です。
3.セキスイかわらuは塗装が不向き
セキスイかわらuは、スレート系の屋根材であるものの他の一般的なスレート屋根材とは異なります。
そのため塗装によるメンテナンスは基本的に不向きであるということに注意が必要です。実際塗装をしてみたけどすぐに塗膜が剥がれてしまったなどトラブルも少なくありません。
※屋根自体への塗装は不向きですが、屋根に設置している板金への塗装は可能です!
こちらの章ではセキスイかわらuに塗装が適さない理由と、無理に塗装を行った場合に起こり得るリスクについてお話していきたいと思います。
3-1.塗装が不向きな理由
■劣化が激しく塗膜が密着しないから
セキスイかわらuはセメントとパルプ繊維などを主成分とした屋根材で吸水性が高い特徴を持ちます。
新築時には表面に塗装をしているため防水性がありますが、経年によって塗膜が劣化すると屋根材が水分や湿気を吸い込みやすくなり再塗装をしても塗膜が密着しません。
よく、塗膜の密着性を高めるためには「高圧洗浄機で屋根をよく洗浄すること」や、「下地処理をしっかりと行うこと」が大切であると言われますが、たとえこれらをしっかりと行ったとしてもセキスイかわらu自体そのものが劣化していれば、塗装をしても短期間で剥がれてしまう恐れがあります。
■表面にアスベストを含む層がある可能性があるから
1990年8月以降に製造されたセキスイかわらuにはアスベストが含まれている商品があります。アスベストを含んだ屋根に高圧洗浄機で洗浄してしまうと水圧で粉塵が飛散されるリスクがあります。
アスベストは人体への影響はもちろん、法的にも厳しい制限があるため注意が必要です。
そのため塗装を行う前の下地処理全般が制限されることから施工ができない場合があります。
■メーカーが塗装を推奨していないから
セキスイかわらuを製造していた積水化学工業(現在のセキスイルーフテック)ではメンテナンス方法として塗装を推奨していません。
塗装による回復が難しいことと、素材の性質上塗装効果が最大限に発揮できないことから推奨していません。
3-2.無理に塗装をした場合に起こり得るリスク
塗装が不向きであるセキスイかわらuに無理に塗装をしてしまうと以下のようなリスクが生じる可能性があります。
■ 数年で塗膜が剥がれてしまう
塗装してから数年で塗膜が剥がれたり浮いたりしてしまうリスクが最大の問題です。
特に湿気が溜まっているセキスイかわらuに塗装をしてしまうと内部から膨らんでしまうケースもあります。せっかく塗装費用を出したのに短期間で再度メンテナンスが必要になる可能性があります。
■ 根本的な劣化をなおせない
塗装によって見た目は綺麗になったとしても実際には内部や下地が傷み腐食している場合があります。
劣化を塗膜で隠してしまうと腐食や雨漏りを見つけられず根本的な解決にはなりません。
また、被害が拡大してから気付くケースもあります。
■ 高圧洗浄やケレン作業で破損してしまう
※写真の屋根はセキスイかわらuではありません。
塗装前の高圧洗浄やケレンでの下地処理によって劣化した屋根材が破損してしまう場合があります。
特にセキスイかわらuは築年数の経過からも非常に脆く、踏むだけで割れてしまうケースもあるため塗装準備の段階で屋根にダメージを与えてしまうことがあります。
■ アスベスト飛散のリスク
先程もお話させていただきましたが、アスベストを含む屋根材に高圧洗浄や下地処理を行うとアスベストが飛散してしまう可能性があります。
アスベストは人体への影響が強く施主様だけでなく近隣の方への影響も無視できません。
【結論】塗装ではなく根本的な解決(メンテナンス)が必要である。
セキスイかわらuに塗装をしても根本的な解決にはならずかえってトラブルや費用の無駄が生じてしまう可能性があります。
特に築20年以上が経過している場合、様々な劣化症状が進行しているであろうことから塗装ではなく「カバー工法や」「葺き替え工法」でのメンテナンスが必要になります。
詳しくは次章にて解説いたします!
4.セキスイかわらuのメンテナンス方法と費用相場
セキスイかわらuは塗装でのメンテナンス方法は以下の2つの方法を推奨しております。詳しく解説していきたいと思います。
4-1.カバー工法(費用目安約100万円/30坪~)
■ カバー工法とは?
カバー工法とは既存の屋根材の上から新しい屋根材を被せるメンテナンス方法です。
屋根材の上に屋根材を被せることから重くなってしまうため、最近では軽量屋根のガルバリウム鋼板を使用される方が多いです。
解体工事が不要であるため工期や費用の負担が少なく、アスベストの飛散もありません。また、二重屋根になることで断熱性や遮音性が高まるメリットもあります。
下地の状態が悪い(腐食など)場合には、カバー工法での補修で補いきれないため、施工できないことがあります。
■ カバー工法の費用相場
カバー工法の費用相場は一般的な30坪のお宅で約100万円~です。屋根の状態や勾配によっても変動します。
4-2.葺き替え工法
葺き替え工法とは、既存の屋根材を全て撤去したあとに新しい屋根材を設置する方法です。
下地まで補修できるため、最も根本的なメンテナンスであり確実な方法です。
しかし撤去やアスベスト処理が必要であるため工期が長く費用もかさみます。
■ 葺き替え工法の費用相場
葺き替え工法の費用相場は一般的な30坪のお宅で約150万円~です。屋根の勾配や使用する屋根材によっても価格は変動します。
■ 比較まとめ表
工法 | 方法 | 適した状態 | メリット | デメリット | 費用相場 |
カバー工法 | 既存屋根の上から新しい屋根材を被せる | 下地がしっかりしていればOK(アスベストの有無問わず) |
撤去不要でコストが抑えながら耐久性UP。 工期が短い |
屋根が重くなる。 下地劣化が激しいと不可 |
100万円~ (※使用する屋根材の種類によって変動あり) |
葺き替え工法 | 既存屋根を全て撤去したあとに新しい屋根材に交換 | 屋根材や下地の劣化が激しい場合 | 屋根を一新でき長持ちで安心 |
費用が高い。 工期が長い。 アスベスト入りは処分費が高い |
150万円~ (※アスベストの有無によって撤去費用は変動。使用する屋根材によっても変動あり) |
5.弊社にてセキスイかわらuのメンテナンスをした事例
■ 兵庫県加西市にてセキスイかわらuのメンテナンス(板金の塗装)
こちらのお宅では1990年8月以降に製造されたノンアスベストタイプのセキスイかわらuを使用されていました。ノンアスベストタイプであることから耐久性は低く塗装でのメンテナンスができない状態でした。
今回は屋根部分のメンテナンスは行わず屋根板金の塗装のみ施工させていただきました。
6.まとめ
いかがでしたでしょうか。
セキスイかわらuは製造から年数が経過しており、塗装でのメンテナンスで劣化を補いきれないケースがほとんどであるため、塗装は不向きです。
基本的に「カバー工法」「葺き替え工法」でのメンテナンスを推奨しております。無理に塗装をしてしまうと根本的な劣化の解決にはなりませんので信頼できる業者とよくご相談されることをおすすめします!
塗膜の剥がれ・カビや藻の発生・ひび割れや欠落・反りや浮きなどございましたらメンテナンスを検討しましょう!